ほかならぬ人へ。

2010年2月9日
ほかならぬ人へ。
直木賞受賞作がどんなものなのか興味があって購入。

『ほかならぬ人へ』白石一文


表題作、「ほかならぬ人へ」は主人公がほかならぬ人を見つけるもの。
ふたつめの「かけがえのない人へ」は失ってからかけがえのない人だと気づくもの。
以下はネタバレるかもしれない。


「ほかならぬ人へ」
読み始めて3分の1に到達するあたりまでは、直木賞ってうたわれてるのにてんで面白くないやーぐだぐだしたストーリーだなぁ…と思っていた。
先の展開もなんとなく読めていたし、結末も予想していた通り。

だがしかし、ラストは不覚にも泣いてしまった。
単なる恋愛小説だと思ってあなどっていたからだ。
結婚したけどうまくいかなくて、結局はすぐそばで支えてくれていた安心できる女性と結婚、でもその人も死んじゃうみたいな(ざっくばらん)。エンド。
作者がどういう意図で書いたかは作者にしかわからないけれど、私は作者が「匂い」に最初から最後まで拘っていたのかな、と思った。

支えてくれた女性(上司)からはとってもいい匂いがして、それが妙に安心できると。
女性はそれを「特別に作ってもらった香水」だと主人公に話す場面があり、それ以外には主人公が「落ち着く」という印象を持っていることくらいしかでてこない。
匂いで落ち着くなんて、よくあることだし気にも止めてなかったその「匂い」が、実は彼女自身から溢れていた匂いで、彼女が死んでしまったと同時にその匂いも永久的に消えると。
あ…単なる恋愛小説じゃないわけだよねー(納得)。
読むの途中でやめなくてよかった。


「かけがえのない人へ」
婚約者がいて、結婚を控えているのに昔不倫してた男(現在はバツイチ)と関係を戻しこっそり付き合う主人公。
しかも全員同じ会社みたいな。
結局は、不倫男が好きで結婚前夜にその人のもとへいくのだけど、彼はもう住んでたマンションからいなくなっていた。
その男、子供の頃から施設を転々としてて身寄りもなく、仕事もやめちゃった後だったからもう探せない2度と逢うことができない。エンド。

なんか、特別なこと思ってこの結末なんだろうな、作者のメッセージがあるのかな、とは思いつつも、まったく自分的結論が思いつかない(死)
主人公がどこかちょっと冷めててどこかさっぱりと割り切っていて、そこがとっても気に入ったので、案外すらすら読めた。
二股みたいな真似してるのにここまで堂々とされると、嫌悪感通り越して爽やかというかなんというか。
別に二股も不倫も、本人が納得してやってるんだったらいいんだな、と思ってしまった。
でも、それが読み切った所感なんてあまりにも切ない。

私の家では何も起こらない。
奇跡が起きました。
家の中で唯一読書嫌いなこのわたしが、1日で読破するとかありえない。
あれかな、最近読む仕事が多いから少し鍛えられているのかな。
いづれにしても、ミラクル。

『私の家では何も起こらない』 恩田陸

「何も起こらない」わけがないんだけど。
2階建ての幽霊屋敷と思しき家で起こったさまざまな出来事が綴られている(あらすじひとことですませる)。
もちろん、その話にイチバン相応しい語り手が選ばれていることは言うまでもありません。
だからなんとなく話は繫がっているのだけど話ががらっと変わるので、始終緊張して読まなくて済むことが楽。
うん、面白かった。


以下、感想。ネタバレあるかも。



・姉妹で謎の殺し合い
・自殺(何作か自殺もの)
・子供殺してマリネ作って旦那さまに食べさせる狂気な女
・うっかり死んじゃった(←表現が幼稚)

などなど取り扱っている内容はいかにもグロテスクな感じ――。
でもね、こんなグロいもののくせに「気持ち悪い」とか「怖い」とかいう感情がまったくといっていいほど湧かない。
これ何マジックだ。恩田マジックか?
血の気が引くなんてそんな感じじゃない、ひとつ読み終わるごとに虚無感(?)みたいなものがある気がする。
いい意味ですっからかんな気持ちを誘うというか。

個人的に気に入ったのは「俺と彼らと彼女たち」。
幽霊屋敷を修理した大工さんのお話なんだけど、親父さんがかっこいいのなんの。
こんなかっこいい人間、小説じゃないとお目にかかれないと思う。
だからこそいい。
そしてその家にいる「何か」たちもとっても可愛く見える。

なんだろうなー、幽霊屋敷っていうとそこを払うだの成仏させるだのってイメージがどうしても強くなりがちだけど、そうじゃなくてその気味悪い家の理由が少しずつ重なって、「そういうものもあったかいんだな」って考えてしまえる…。
そんな印象の本。

残念だったのは、「ラストには驚愕の書き下ろし短編が!」なんて煽り文句あったからさぞかしラストはすごいと思って期待してたのに、全然驚愕じゃなかったこと。
おい、「驚愕」の使い方間違ってんじゃないのかと不貞腐れたくなる。
驚かないよ。全然。
発想がやっぱり独特だなーとは思うから、斬新とは言えると思うけど恩田先生の本、1冊でも読んだことあれば絶対驚けないと思うよ。
煽り文句って大事だね。本面白くっても読者をがっかりさせちゃうことできるんだもんね。
うんうん。勉強になります。

コラム考。

2008年9月17日
コラム考。
竹内政明の「編集手帳」

先輩から借りた。
読売新聞1面のコラムを集めたもの。
あの短く限られたスペースで、オチが素敵でスッキリした文章を書けるって本当にすごいことだ。

読売の編集手帳は先輩の薦めで今は毎日読んでいる。
そのときの、情勢や筆者の感情なんかが楽しい。
とても尊敬できる文章を書く、先輩が気に入った理由が垣間見える文章だな。


天声人語より、こっちのほうが好き。

Q&A

2008年9月2日
Q&A
大型商業施設で起きた謎の大惨事。その真実が、問答形式で進む物語の中でしだいに明かされていく、不思議な形の物語。

とにかく質問者の質問や話の聞き方が、すんごく上手。
話を聞く人は話を引き出すのが上手な人だっていうことがよくわかる。
それこそ「ふうん」一言にもドキッとする。
真相がわかったようなわからないような含みのある感じと非現実的な要素も加わる結末で、それがまたよかった。
事件には真相がつきものだけど、これ真相がはっきりわかったらきっと普通に面白かったで終わっちゃうと思う。
曖昧にみえるからこそ心に残るというか、頭に残るというか。